
本日2月23日(月曜祝)19時から『シン・エヴァンゲリオン劇場版 TV版』(総監督:庵野秀明)がTBS系列にて地上波初放送となる。
興行収入約102億円の大ヒットを記録した本作。
TV放送される今、改めて着目してほしいポイントを宇宙開発に詳しいライター・la-promenadeが科学考察する。
(TBS番組情報リンク https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=22313)
1:シンジは膨大な数の命を奪い、守った
「新劇場版エヴァンゲリオン」シリーズは、14歳の碇シンジ(声:緒方恵美)らの少年少女たちが、汎用人型決戦兵器人造人間「エヴァンゲリオン」に乗り込み、謎の巨大生物「使徒」との戦いを繰り広げる物語だ。



シンジらが所属するのが特務機関「NERF(ネルフ)」。シリーズ第3作「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」では、とある理由でそのNERFが内部分裂を起こす。物語の対立構造は、碇ゲンドウ率いるNERF対葛城ミサト率いる「WILLE(ヴィレ)」となる。
もはや人間 VS 使徒のバトルではなく、人間 VS 人間のバトル。シンジが父・ゲンドウと対峙するのが、シリーズの完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』だ。
「新劇場版エヴァンゲリオン」シリーズのテーマのひとつは、「命を残す」ということだ。
主人公のシンジは、シリーズ第2作「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」で、意図せず「ニア・サードインパクト」という地球規模での大災害を引き起こしてしまった。シンジは大切な人と人類を守るために戦ったのだが、あまりに悲惨な結果となった。
しかし、そのニア・サードインパクトから奇跡的に生き残った地域が日本にあった。「第三村」である。小規模で決して豊かではない暮らしではあるが、命が残されたのだ。
そして、第三村には、シンジの親友である鈴原トウジがいて、彼には幼い娘がいた。シンジは膨大な数の命を奪ったのだが、一方で、シンジは他者の命を守るために戦ったのだ。



(アスカも第三村を守るために戦った)



2:ヴンダーの「たんぽぽの綿毛型ユニット」は宇宙へ向かう
この「命を残す」という営みは、「地球の生態系全体」というマクロ的な規模でも試みられる。それが、空中戦艦「ヴンダー」から射出された「種子保管ユニット」だ。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作中、ヴンダーには2つの顔を持つと明かされる。
ひとつは「命を救う戦闘艦」
もうひとつが「命を残す方舟」



後者の方舟として機能するのが、ヴンダーに搭載された「種子保管ユニット」だ。
元々これは加持リョウジが考案した装置。彼が育てていたスイカなど、様々な生命を保存している。詳しい説明はなかったが、植物の場合は種子、動物の場合は冷凍した肉体かDNAが中にあるのだろう。
加持の意思を受け継ぐヴンダー艦長・葛城ミサトは、最終決戦の前、種子保管ユニットを宇宙空間へ放った。
種子保管ユニットを地球から放り出し、火星にでもとどけばいい。そうすれば地球上で「人類補完計画(アディショナル・インパクト)」が発動しても、地球の全生命体が滅亡することはない。
本作で着目してほしいのが、ヴンダーから離れたユニットの形状。細長く、たんぽぽの綿毛のような形をしていた。
ところで、生命が故郷の星を離れて生き延びるというのは、SFだけの話ではない。
現実世界においても、生命は惑星の間を行き来しているかもしれないという研究結果がある。それは、国際宇宙ステーションで行われた「たんぽぽ計画」と呼ばれるJAXAの生命実験だ。
3:命を残す方舟~JAXAの実験結果
2015年に国際宇宙ステーションで行われた「たんぽぽ計画」。この生命実験の名前は、たんぽぽの種が綿毛の力で風に乗り、新天地で根を下ろすというイメージからつけられた。

(参考図書『宇宙飛行士は見た 宇宙にいったらこうだった!』山崎直子/repicbook)
JAXAを中心とした研究チームは、極限環境微生物(デイノコッカス・ラジオデュランス)を国際宇宙ステーションの船外へ運んだ。そして3年間、太陽から降り注ぐ放射線にさらし続け、生存できるのか調べた。
実験の結果、微生物を集めて塊状にすれば、宇宙空間でも数年〜数十年生きられると判明した。塊の外側部分が放射線を遮る盾になるのだ。なお、塊状でなくとも、小惑星や彗星のような岩石の中にいれば生存可能と考えられている。
微生物の塊や岩石は、惑星上の地上の火山活動、台風、あるいは大気中の放電現象によって、宇宙空間へ出ることができる(『科学者18人にお尋ねします。宇宙には誰かいますか?』佐藤勝彦監修/河出書房新社)。

なお、火星でも火山活動や台風は起きている。もし、こういった自然現象が火星で起こって、小さな岩石が地球へ向かう軌道に乗ったとしたら——最短数ヶ月で地球表面へ辿り着く。

(参考図書:『惑星ガイドブック1 観測の基礎知識と火星の観測』月惑星研究会編/誠文堂新光社)
実際に、火星からやってきた岩石が隕石として地球に降ってくることは稀にある。現在までで火星から飛んできた隕石が400個発見されている。
未だ生命の起原は分からないことだらけ。実は、地球上の生命体は、そもそも地球で生まれたかどうかが不明なのだ。
だから「たんぽぽ計画」の研究チームは、2020年8月の論文で、地球最初の生物は火星で誕生した可能性もあると指摘した。そこから生命の進化がはじまって、地球の生態系を形作ったのなら……。太古の昔、惑星間を行き来する「命を残す方舟」が実在したかもしれないのだ。
4:マジでエヴァは現実世界を反映している
エヴァに話を戻そう。
第2使徒リリスも小惑星に乗って宇宙からやってきた生物だ。そしてリリスの肉体は、数十億年もの間、生命の源となる液体「L.C.L」を流し続ける。
作中、L.C.Lは「生命のスープ」と説明されるが、これも現実を反映している。地球上の生命の分子組成をみると、水が70%、タンパク質が15%を占める。あらゆる生命は、「スープ(タンパク質水溶液)の入った革袋」なのだ。
エヴァの世界では、生命の起源が「第3新東京市」(現実でいうところの箱根)の地下に眠っていた。リリスという巨大な異星人を発見し、しかも人類のご先祖様だと判明したときは、誰もが驚いたはずだ。
地球生命を守るため、加持は科学の力で方舟を作り上げた。それが火星などの別の惑星に着陸したら、地球生命が新天地で生態系を築くだろう。
そして長い年月をかけて進化は続き、再び知的生命が生まれるかもしれない。もし、彼らが自分たちの祖先を知ったとしたら、どう思うだろうか。
さらに渚カヲルみたいな美少年が現れ、「また会えたね」なんて優しく声をかけてきたとしたら……!


現実とエヴァの世界が判別つかない!!!!
そんな妄想がいくらでも広がってしまいそうだ。
5:あなたの人生には「命を残す」物語はありますか?
本稿の筆者も、「命を残す」実体験があった。
数年前、次男が生まれた。先天性の重大な心疾患があると判明し、すぐに手術することが決定した。手術は成功。今では元気に育っている。
彼の名前は生まれてから決める予定だった。長男の名前に漢数字の「一」が入っているので、次男には「二」を入れようと夫婦で話し合っていた。
出産した病院から大学病院へ運ぶ直前、次男の名前を決めた。
「進二(シンジ)」だ。
どんな困難があっても前へ前へ進んでほしいという願いを込めた。この名前以外にはありえないと、夫婦二人で泣きながら決めた。

大学病院へ搬送される様子を筆者は見ていた。次男の体の周囲には膨大な数の機器があり、何本もの管が口に入っている。
深夜、多くの大人たちが次男の命のために戦っていた。
豆粒ほどの大きさの心臓を守ろうと。

本稿の読者の皆様、もし「命を残す」実体験や何かお考えがありましたら、ぜひコメント欄に入力してください。よろしくお願いいたします。
最後に、「命を残す」物語を私たちに届けてくれた庵野秀明総監督と樋口真嗣(ヒグチシンジ)監督に感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。次回作も楽しみにしております。
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